札幌市中央区南九西八のお好み焼き店「せんば」が店舗の老朽化のため、十九日の営業を最後に店を閉じる。下町の風情を残す東屯田通の一角にのれんを掲げて三十八年。ソースの香りを街角に漂わせ、多くの人に愛された「浪速の味」が惜しまれながら消える。
店主は李世琳さん(60)。華僑の二世として大阪府で生まれ、青春時代を店名の由来となる大阪市中央区の船場地区で過ごした。文具メーカーに勤めていた四十年前、転勤で札幌に来た。
二年後、札幌永住を決意し、「大阪で身近にあったお好み焼きの店が札幌にはほどんどない」ことから、「せんば」を開いた。以来、妻や娘たちと家族ぐるみで、故郷の味を札幌で根付かせてきた。
お好み焼きが二十四種類、焼きそばも十六種類と豊富なメニューをそろえた。ふっくらと焼き上がるお好み焼きは、生地を道内産の小麦で練り、具材には旬の魚介類を使う。常連は家族連れや会社帰りのサラリーマン。お好み焼きが北海道で定着し、最近では若いカップルも増えたという。
開店当初は子供の歓声が響いた東屯田通の商店街もここ数年はシャッターが降りたままの店が増えた。「今は最盛期の四分の一くらいの人通り。寂しいね」と李さん。
その李さんが店子(たなこ)となっている「せんば」も、古びた建物に改築のめどはない。常連からは「どこか別の場所で続けてほしい」と言われるが、李さんは「もう年だし、一度休んでじっくり考えます」とのれんを下ろす覚悟を決めた。
三十八年間を振り返って李さんは言う。「毎日、開店前の準備は本当に大変だったけれども、たくさんのお客さんと触れ合うことができた。これが本当に楽しかった」
(北海道新聞より引用)
0 件のコメント:
コメントを投稿